タイプ: コラム

日付:2018/10/03

連載コラム「税の交差点」第49回:欧州3か国ウーバーの旅と税制の対応

森信茂樹
東京財団政策研究所研究主幹 

9月に、エストニア、フランス、イギリスの財務省・国税庁を訪問した。出張に際して、飛行機の利用以外の移動はすべて、ウーバーを活用した。というのは、メンバーのA氏がスマホにウーバーのアプリを日本で入れており、それを使ってターリン、パリ、ロンドンでウーバーを呼び出し目的地まで運んでもらったのである。

私にとってウーバーは初めての経験であったが、事前の予想に反し、極めて便利で、乗り心地もよかった。とにかくすぐ捕まえることができる。どんな場所でもGPSを活用して、近くにいるウーバータクシーのドライバーを呼び出すことができ、数分以内に到着する。車のクラスは選べるようになっており、われわれは中クラスの車で移動したのだが、どれもみなきれいな自家用車であった。

運転手は英語が話せ、決済は注文時に表示される価格でカード決済、チップも不要である。乗り終わった後は、感想を5段階で評価するようになっている。実はこちら(乗客)の方の評価も予約段階で運転手に通報されており、評価の低いお客は、運転手から断られるようになっている。

ロンドンやパリでは、タクシーの組合との軋轢が生じていると報じられていたが、私が見る限り、双方は済み分けているようで、ヒースロー空港では、ウーバー専用の乗り場が設けられていた。ウーバーを堪能した出張であった。

さて、今回の出張の目的の一つは、「シェアリングエコノミーと税金」ということで、まさにウーバーの運転手に支払われる対価(運転手の収入)がどのように税務申告されているのか、税務当局はどのようなチェックを行っているのか、またシェアリングエコノミー・ギグエコノミーの発達のもとで、どのような税制が構築され、あるいは検討されているのか、などを調査することであった。

この分野で最も進んでいるのはイーガバメントを標榜するエストニアである。「税金は国民が進んで払うもので、集めるものではない」という哲学のもとで、ITを活用し国民の信頼度の高い税務行政を行っている。目下の最大課題は、シェアリングエコノミー発達のもとで広がるタックスギャップ(無申告・過少申告による税収減)を可能な限り少なくすることであった。

まず税務当局は、ウーバー本社(オランダ)と直接交渉して、エストニアでの運行と引きかえに、運転手の同意を得たうえで、その収入情報を入手することに成功した。

次に運転手側についても工夫がなされている。運転手の税務申告には2つの選択肢が用意されている。

一つは登録事業者となる道で、その場合の申告は以下のとおりとなる。ウーバー本社から税務当局に送付された運転手の収入は、あらかじめ本人の申告書に記載され、本人はそれにガソリン代などの経費を書き込んでネットの所得を申告する(所得税率は単一で20%)。いわゆる「記入済み申告制度」である。

もう一つは、簡素な申告方式で、グロスの収入に20%の分離課税をして申告不要とする方法である。具体的には、個人が銀行口座を開設し、その口座にウーバーからの収入が振り込まれる。銀行が収入の20%を源泉徴収し国税当局に収める。本人は申告義務が免除されるのである。

一見ネットの所得に20%の税率が適用される前者の方が有利そうだが、社会保険料負担などが加わり、合計で50%を上回る負担になる場合があるそうだ。経費率の少ないちょっとしたアルバイトは、圧倒的に後者の簡素な申告法を活用しているようだ。

民間企業と(国税当局を含む)公的機関は、法律の許す範囲で、インターネットを通じて広範な情報交換を行っており(Xロード)、簡素で正確な納税制度を構築しているのである。

ウーバーについては、イギリス、フランスも適正な申告に向けて様々な努力をしている。

フランスでは、ウーバーの本社があるオランダの課税当局との情報交換制度(CRS)によって、フランスで運転する者の収入情報を入手する方向で検討を進めているといっていた。

イギリスは、年末調整(PAYE)の国である。多くのサラリーマンは、わが国と同じく会社による年末調整があり、税務署に申告にいかなくてもよい制度となっている。そこで、この制度をウーバー本社とウーバーの運転手に拡張することを考えているようだ。

具体的には、税務当局からウーバー本社に、運転手の概算経費の計算方式(1マイルごとにいくら)を伝えることにより、ウーバーをPAYEの中に取り込んで、運転手は申告にいかなくてもいいようにする方向で検討を始める、と語ってくれた。やや中期的な課題とも言っていた。

もう一つ興味深いのは、1000ポンドのシェアリング・アローワンス(shearing allowance)を導入し、少額の事業や不動産レンタルの収入を申告から除外したことである。

このように、ウーバーの運転手の税金をめぐって、三者三様の検討が行われていることが分かった。わが国ではウーバーは本格的に営業していないが、シェアリングエコノミーで少額の所得を稼ぐ個人事業者が増加すれば、いずれこれらの事例を参考にする日が来るのかもしれない。

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