タイプ: コラム

日付:2018/04/03

<シリーズ>森友問題を考える -政策立案・実施と公務員制度-

田中秀明
明治大学公共政策大学院教授

大阪の国有地の安値売却に端を発した森友問題は、財務省理財局による決裁文書の改ざんという前代未聞の事態に発展し、証人喚問も行われた。政府は、信頼回復のため、国民が理解できるように、なぜこうした事態になったのか、問題の全容を明らかにしなければならないが、森友問題は、政府機関の不祥事として片づける問題ではない。これまでの報道等で、内閣人事局や官邸主導の公務員人事が定着する中で、役人たちが総理や官邸を忖度したことが森友問題の背景にあると指摘されている。筆者も一因はそのように考えるが、問題の根元は従来からの公務員制度に内在している。本稿では、日本の公務員制度の何が問題かを分析し、必要な改革を提案する。

(公務員制度改革の経緯と内容)

90年代以降、霞が関は、業界への天下りや不祥事、省庁の縦割り、官僚主導などで批判さてきたが、改革はなかなか進まなかった。これに果敢に挑戦したのが、第1次安倍内閣であった。同内閣は、2007年6月、国家公務員法等を改正し、能力実績主義のための新たな人事評価制度、各省による再就職あっせん禁止などの再就職規制の見直しを行った。その後、2008年6月、福田内閣において、国家公務員制度の抜本的な改革を進めるための国家公務員制度改革基本法が成立したが、これを具体化するための関連法は3回(麻生・鳩山・菅政権)国会に提案されたものの、いずれも廃案になってしまった。これを成立させたのが(2014年4月)、第2次安倍内閣である。

今般の公務員制度改革の目的について、稲田朋美担当大臣(当時)は、国会審議において、「内閣の重要政策に対応した戦略的人材配置を実現して、縦割り行政の弊害を排し、各府省一体となった行政運営を確保するとともに、政府としての総合的人材戦略を確立し、そして、私は、官僚の皆さんが一人一人、自分の仕事に誇りと責任を持って、省のためではなくて国益のために働く、国家国民のために働く、そういう公務員制度改革が急務であるというふうに考えております」(衆議院内閣委員会2013年11月22日)と述べている。

目的は「よし」である。では、どうやって目的を実現するのか。改革の柱となるのは、①幹部公務員の一元管理、②内閣人事局の設置、③内閣総理大臣補佐官・大臣補佐官の3点である。

なかでも鍵となるのが、幹部公務員についての新しい任免システムである。法律では、「幹部職」と規定されているが、事務次官・局長・審議官クラスが対象となる。幹部職員となるためには、職務遂行能力をチェックする適格性審査をクリアしなければならない。そして、クリアした者は幹部候補者名簿(約600人)に記載される。この名簿の中から、具体的なポストへの任命が行われる。

国家法務員法上、公務員の任命権者は大臣であるが、任命に当たり、あらかじめ総理大臣及び官房長官と協議することになった。また、総理大臣・官房長官は、自ら考える候補者を特定のポストに就けるために、任命権者に協議を求めることができる。従来(1997年以降)、次官や局長等の人事については、内閣の人事検討委員会(正副の官房長官で構成)が事前審査することになっていた。今般の改革は、これを法的に位置付けるとともに、総理大臣・官房長官・大臣の三者の協議により決定しようとするものである。また、幹部職員の降任も可能になった。これらの幹部職員の一元管理に関する事務等を担う組織として、内閣に内閣人事局が新設された。

(政治主導の人事の弊害)

政府全体の見地から幹部公務員を一般公務員とは分けて人事管理するのは主要先進国に共通するものであり、今般の改革の方向は正しいが、問題はその方法である。残念ながら、それは、後述するような豪州等の例からは似て非なるものになってしまった。

幹部職員の任命方法については検討の経緯がある。国家公務員制度改革基本法の具体化を検討し改正法案への提言を行ったのは、国家公務員制度改革推進本部顧問会議であり、実は筆者もその検討に加わった。その報告書(2008年11月)は、「幹部候補者名簿はポスト毎に作成する。各ポストに対して2~3倍程度の候補者が掲載されている名簿とし、各人は、複数のポストに候補者として掲載され得ることとする方向で検討すべきである」と提言している。ポストごとに、必要な能力や業績をクリアーした3人程度の候補者をリストに載せて審査し、その中から任命するのが世界標準であるが、数百人規模の候補者名簿から大臣らが幹部職員を選ぶことになれば、大臣らが「あなたは優秀だ」と言えばよく、好き嫌いで幹部職員を選ぶことができる。

政治主導のためには、部下である公務員の人事を首相や大臣が決めるのは当然と思うかもしれない。安倍総理や菅官房長官らは「人事は適材適所が基本方針」と述べているが、抜擢人事と恣意的な人事は紙一重であり、適材適所をどうやって立証するのか。現実には、官邸に異を唱えた者は更迭されており(議論した上で首相の決定に従わないのであれば更迭すべきだが)、そうとは言えない。学校法人「加計学園」が愛媛県今治市に大学の獣医学部を新設する計画を巡って、前川喜平・前文部科学次官が「官邸など政権中枢からの意向、要請に逆らえない状況がある」と主張しており、現実は、官邸が人事を握ることで、官僚たちは政治家の顔色を伺い、忖度に走っているのだ。

(霞が関の問題)

内閣人事局が問題だとすれば、従来の制度に戻すべきか。「否」である。確かに、今回の公務員制度改革による弊害は大きいが、政と官の関係など霞が関の基本的な問題は従来から存在しているからである。霞が関の根本的な問題は、公務員の専門性が軽視され、公務員が「政治化」していることである。ここでの政治化とは、与野党の国会議員との濃密な接触から政治的に強い影響を受けていること、公務員や省庁自身が自らの利害を持ちその追求を図っていること、そして曖昧な政官関係をさす。本財団では、税・社会保障の議論を行ってきたが、いつも感じるのは、政府がデータを出さないこと、分析に基づき分析や検討が不十分であることだ。これも、公務員の政治化が背景にある。

公務員の政治化の根源は、任命プロセスにある。国家公務員法は能力や成績を基準とする「資格任用」の原則を規定するものの、公務員の任命権は大臣にある。と言っても、これまでは、公務員自身が自らの人事を決めていた。問題は、任命の基準が一般的であり、資格任用を担保する仕組みになっていないことである。英国などの国では、一般公務員は、政治任用を防ぐため、大臣が幹部を直接任命する仕組みになっていない。選考委員会や中央人事機関が審査・推薦し、これを首相や大臣が承認する仕組みが通常である。間接的な任命手続きをとり、大臣の影響力を極力遮断している。もし、大臣の意向で自由に公務員を任免できるようになれば、大臣の意向に沿わない助言を率直には行えず、許認可や補助金の交付などが大臣の意向で左右される恐れがあるからだ。

(政治任用と資格任用)

ではどう改革すればよいか。それを考えるためには、そもそも公務員制度のあり方を考える必要がある。

公務員の任免の仕組みには、政治任用と資格任用がある(表1参照)。前者の代表例が米国で、省庁の局長以上は大統領がその裁量で任用する。猟官運動も日常茶飯だ。現在のトランプ大統領は、意に沿わない大臣や幹部公務員を次々に入れ替えている。資格任用を採用しているのは英国や豪州である。事務方トップの次官に至るまで公務員は能力や業績で決まる。幹部公務員は公募採用が一般的になっており、ポストごとに最も適した人材を競争原理に基づいて採用する。公務員には、政治的中立性が厳しく求められており、公務員と政治家の接触は制限されている。大臣には実質的な人事権がない。

両者の違いは、公務員の役割、すなわち「応答性」(主人の要求に対して従順に応えるという意味)と「専門性」のどちらを重視するかにある。応答性を重視する政治任用の国では、公務員は政治家の分身として政治的な調整を行い、専門性を重視する資格任用の国では、政治的調整は首相・大臣などの政治家が行う。公務員は、大臣に対して、「偏りのない率直な助言」を提供しなければならず、それは個人や組織の利害で歪められてはならない。政治任用モデルか資格任用モデルかの選択は、公務員に何をさせるかという哲学の相違から生じるといえる。

日本の問題は、資格任用は制度の建前であって、実態は政治任用化していることである。公務員が政治的な調整も行い、分析や検討が疎かになっている。今般の内閣人事局の設置や官邸主導の人事は、政府全体の見地という建前はよいが、実際は、既に政治化している霞が関の公務員を更に政治化するものだ。

(必要な公務員制度改革)

それでは日本は、どういう制度を導入すべきか。参考になるのは、豪州が1980年代に採用した制度だ。次官を除く審議官以上の幹部職員は「上級管理職」として位置づけられ、すべて公募となり、独立した選考委員会の審査を経て任命される。ある省庁に採用されたからといって、競争を勝ち抜かないと幹部ポストにつけない。次官は、通常上級管理職の中から選考されるが、任期付採用となった。豪州も官僚主導の国家と言われたが、この改革により省益を最優先する縦割り主義の弊害も是正され、政治主導が確立された。幹部になるためには、公募による競争に勝つ必要があり、ある省の出身だからと言って当該省の幹部にはなれないからである。また首相内閣府等で政府全体の政策立案等に貢献する者が、省庁の局長や次官に登用されるようになった。

今回の改革の柱である幹部の一元管理とは、省益や私益を追求する者が幹部公務員となることを防ぐとともに、時の政権が掲げる政策の立案・実施を積極的に支える公務員を育成し、適材適所の配置を行うことである。そのためには、公務員を「政治化」するのではなく「非政治化」する必要がある。政策の質を上げるためには、公務員が客観的なデータに基づき分析や検討を行うことが必要となるが、それは幹部公務員の政治任用では達成できない。具体的な改革は次のとおりである。

第1に透明かつ競争的な任命プロセスをつくる必要がある。適格性審査や候補者名簿の作成に中立的な選考委員会や人事院が関与し、ポスト毎に候補者を内閣に推薦する仕組みである。この推薦を踏まえて、首相・大臣が最終的に決定する。特に、公募を重視するべきである。

第2に、正確な人事情報の収集とインセンティブである。内閣人事局は、大臣らから出された人事提案が能力や業績に基づくものであるかを審査し、もしそれが恣意的な場合は、「ノー」と言えなければならない。そのためには、幹部公務員やその候補者の正確な人事情報が必要である。

第3に、政治任用の活用とガイドラインの策定である。官僚主導と批判されるのは、大臣が政策スタッフを持たず、官僚機構に情報を握られているからである。今回の法案では、補佐官制度が導入されるが、彼らは政治任用される。英国等でも、大臣の顧問が存在し、彼等はまさに大臣による政治任用である。米国では、局長等幹部は政治任用だが、課長クラスまでは競争原理による資格任用が原則である。重要なことは、資格任用の公務員と政治任用の公務員を区別することである。

結局のところ、公務員制度改革とは公務員に何をさせるかという問題に改めて答えることである。一般公務員を政治任用し、政治家の分身として調整業務をさせるのか、それとも中立性を基本に専門的分析や評価を行わせるかである。

筆者は、事務次官等の幹部公務員については、英国や豪州等をモデルにすべきと考える。公務員制度改革と政治改革はコインの表裏の関係にある。政治主導を強めることに異論はないが、それは官邸や大臣の任命権を強めることではない。英国等では、大臣に実質的な人事権はないが、政治主導の国として評価されている。それは、公務員の専門的な分析検討に基づき、首相・大臣が調整や意思決定に指導力を発揮しているからだ。透明な任命プロセスとチェックシステムがないと、猟官運動が横行しセクショナリズムも是正できない。一般職公務員と政治任用者を区別し、それぞれの役割に応じた人事管理を構築する必要がある。

もとより諸外国の仕組みを単純に輸入しても機能しない。新しい制度を導入しても、実際の運用が問題である。国家公務員法は、能力主義、競争原理等を規定しているが、運用は法律の通りではないからである。

 

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