連載コラム「税の交差点」第40回:タマは政府にある――政府は自らの責任を果たして日銀と信頼関係の構築を

森信茂樹
東京財団上席研究員

日銀黒田総裁が再任され、あわせて副総裁として、日銀理事から昇格した雨宮正佳氏と、大学教授から転じた若田部昌澄氏が就任し、新体制が整った。5年前のバランス、つまり総裁を日銀生え抜きとリフレ派学者が支えるという構図はかわらず、黒田総裁1期の金融政策が今後も継続するというメッセージを送ったといえよう。

新体制の発足に当たって筆者が考えていることを以下述べてみたい。

5年間異次元の金融緩和などあらゆる政策手段を総動員して金融政策を行ったわけだが、2%という物価目標は達成されていない。これをどう考えるかということがもっと議論されてよい。

アベノミクス「3本の矢」の第1「大胆な金融政策」ということで、2%のインフレターゲットを置いて、インフレ期待を生じさせるべく、マイナス金利を含めた量的・質的金融緩和を行ってきた。さらにはイールドカーブ・コントロールという長期金利を操作するところまで踏み込んできた。日銀はさまざまな手段を総動員して対処してきたということは、周知の事実であり、多くの国民もその努力は認めるであろう。

しかし、5年間様々な手段を尽くして努力したが目標は達成できなかった。こういう場合、常識的には、「手段」が間違っていたのではないか、というように考えることになる。すでにマイナス金利に伴う悪影響は、金融機関の経営や国民の利子所得の減少などさまざまなところに波及している。

そして、「手段」の前に、そもそも2%という「目標」が高すぎるのではないか、ということが議論になる。米国もEUも2%程度のインフレターゲットを置いているが、わが国には、それを達成する経済ファンダメンタルが欠けているのではないか、という議論である。

この議論は、2%というターゲットは、金融政策だけでは達成不可能で、経済構造や財政状況などの経済ファンダメンタルズを変えていく政策が合わせて実行されなければならない、という結論になる。

それはすなわち、3本の矢のほかの2本である、「機動的な財政政策」、「成長戦略」が効果を上げていないのではということである。そこで、13年1月22日の政府と日銀の共同声明(以下アコード)に戻って考えていく必要がある。

アコードには、「政府の取り組み」として、経済構造の変革など「競争力と経済成長の強化」と「持続可能な財政構造の確立のための取り組み」が明記されている。しかし周知のように、競争力が強化されたという実感はないし、2度にわたる消費増税の延期や補正予算による公共事業の大盤振る舞いに象徴されるように、持続可能な財政に向けての取り組みは全くなされていないどころか、逆行している状況だ。

このように、安倍政権の政策運営は、憲法改正や外交分野には多くの時間やエネルギーを割くものの、経済構造・財政の改革にはほとんど興味がなく実績もない。つまり、自らの約束は棚上げにして、アコードの相手方である日銀だけにデフレからの脱却責任を押し付けている姿が見えてくる。

米国連銀も欧州中銀も出口に向けての政策を始めているが、それはそれぞれの国の「政府・政権」と信頼関係を作り対話を繰り返しながら進めている。

一方わが国は、いまだ出口の議論もできない状況だ。目標が達成できない状況だから当然だ、という見方もあるが、背景には、安倍政権・政治の無言の圧力のようなものが感じられる。政権と中央銀行とに構築されるべき信頼感の欠如である。

鯨岡仁氏の「日銀と政治」(朝日新聞出版)をよむと、日銀の政府に対する信頼感の欠如がいたるところにあることが的確に描写されている。

今更リフレ派の批判をするつもりはないが、日銀の大量な国債の購入は、政府の財政規律を弱め、財政ファイナンスになっている。放置しておくと、金融危機、信用秩序の維持すらおかしくなる。2%という目標の見直しを含めた出口の議論を、マーケットと対話しながら開始していくべき時期に来ている。

出口の議論は、短期的には円高につながるだろうが、中長期的に為替を決めるのは購買力平価である。現在の金融抑圧政策が破たんし、利子率よりも高いインフレが生じれば、一気に円安に転じる。その時の恐怖を思えば、短期的な円高など恐れるに足らぬことではないか。

黒田総裁2期目の最大の役目は、日銀と政府との信頼感の醸成だが、そのカギを握るのは政府の経済構造政策と財政政策である。タマは、政府側にある。

ページトップへ