連載コラム「税の交差点」第32回:「希望の党」の選挙公約は究極のポピュリズムではないか

森信茂樹
東京財団上席研究員/税・社会保障調査会座長

「希望の党」の経済政策面における選挙公約が公表された。消費税の凍結・大企業の留保金課税・ベーシックインカムの導入の3つが柱だという。

まずは、2019年10月の消費増税の締結で、「景気が失速する可能性が高いため」というのがその理由である。消費税は、価格転嫁を通じて税の負担を求めるので、転嫁できない場合は事業者に、転嫁できれば消費者の負担になる。いずれにしても増税なので、経済に与える効果はマイナスであることは自明の理である。

しかし増税にもろ手を挙げて賛成する者がいない中、なぜ今日わが国は増税せざるを得ないのか。財政健全化に向かうことによりわが国の信用を維持し、2025年の「団塊の世代」の後期高齢者の突入を控えて必要最小限の社会保障の充実を図り、少子化や待機児童問題への対応、幼児教育による経済の底上げと格差の縮小など責任を持って政策を実行するためである。

これらの政策にはすべて財源が必要なわけで、それに答えることなく、ただ消費増税延期では、とても政権を取ろうとする責任政党の対応とは言えない。

次の公約である大企業の内部留保課税も問題山積である。

確かに大企業は莫大な利益を内部留保として積み上げている。半面、労働分配率は低下し続けているので、「大企業は、内部留保を吐き出して、賃金、設備投資、配当の増加を行うべきだ」というのは、全くの正論である。

しかしそれを懲罰的な税制で行うことはどうか。効果がないばかりか、逆効果になりかねない。

内部留保というのは、一度法人課税がなされたあとのもので、それに課税することは二重課税になる。つまり、懲罰的な意義がある、ということでなんとか正当化できる税制である。

問題は、企業がこの追加税負担を避けようとして、賃金引き上げや設備投資を行うことになるかどうかである。賃上げは企業の恒久的なコスト増になり、設備投資の拡大は、人口減少で国内需要が飽和する中で行われるとは考えにくい。実際そのような状況が起きている。そこで、企業行動としては、配当の増加により課税を免れたいという行動になる。実際、内部留保課税を導入した韓国では、配当の増加だけが生じ、賃金増には結び付いていない。

しかし、わが国の大企業の外国人持ち株比率はすでに4割近いので、配当増加は海外に内部留保が流出することになる。また持ち合いの続くわが国では、法人間配当が増えるだけである。

さらに企業は、利益を海外に留保させる租税回避行動をとるかもしれない。そうなれば元も子もないことになる。

労働分配率の低下などを防ぐには、コーポレートガバナンスとして、企業自らが内部留保の使途を決定すべきことではないか。

何としても政府が口出ししたいというのであれば、「所得拡大促進税制」という現行税制を拡充することで対応すべきだろう。

最後に、ベーシックインカムも公約になっているようだが、これにはもっと大きな問題がある。それは、勤労モラルへの影響と財源だ。

誰もが「無条件」で最低限の生活保障を受けるための給付をベーシックインカムというが、これでは人々はまともに働こうとしなくなる。ごみ収集などのいわゆる3K仕事は誰がやるのであろうか。

また最低限の生活保障ということで、国民全員に無条件で生活保護並みの所得を給付するには、数十兆単位の財源が必要となる。消費税をも凍結しようとしている中で、どこにそのような財源が見つかるというのか。

このように、「希望の党」の選挙公約(経済政策部分)はあまりに問題が多い。国民に媚びるポピュリズムの塊のような内容だ。民主党が国民の信頼を失う最初のきっかけとなった「財源なき子ども手当2万6千円」の失敗を思い出さずにはおれない。

「希望」が「失望」に変わらないことを願うばかりだ。

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