連載コラム「税の交差点」第31回:小池新党は「希望」か「失望」か

森信茂樹
東京財団上席研究員/税・社会保障調査会座長

党利党略だけの唐突の解散総選挙である。国民は、何を判断の「よすが」にすればいいのだろうか。

経済政策ということでは、安倍総理解散会見の、「消費増税分の使途拡大」と「財政再建目標の延期」が問われることになるが、本来は5年近くやってきたアベノミクスの是非を問うべきなのだろう。

筆者は、アベノミクスがわが国をデフレから脱却させる効果があったこと、雇用や企業収益も拡大したことは評価している。一方で、低迷する個人消費の拡大には、若者を中心にした将来不安が見て取れ、それへの対応が不足していると考えている。

税・社会保障調査会のメンバーである小塩一橋大学教授が指摘されているように、わが国の中間層は、所得で見ても資産で見ても、やせ細りつつある。

そこで、アベノミクスに不足するのは、税と社会保障による所得再分配策、それによる国民の将来不安の軽減策ではないか。

アベノミクスは、経済が拡大すれば市場メカニズムを通じて成果が皆に行きわたるというトリクルダウンだが、中間層の回復には、第2次分配というべき所得再分配政策が必要だ。具体的内容はこれまで述べてきた、富裕高齢層を対象とした年金税制の強化などである。

加えて、財政再建目標の先延ばしは、わが国経済が別途の大きなリスクを抱えることになる。とりわけ欧米諸国が金融政策の出口を模索する中、わが国もいずれ出口に向かう必要があるが、財政再建目標がゆるいと、そこには向かえない。

このように考えると、安倍政権・アベノミクスへの対抗軸は、所得再分配と財政再建への一層の努力(さらなる歳出削減と歳入増加努力)、ということになる。

そこで、受け皿と呼ばれている小池新党の政策(いまだ公約は不明だが)を見ると、消費税凍結ということのようだ。

本日(10月2日)の日経朝刊2面に、「安保・増税で隔たり」と題して、「希望の党」の政策が、小池氏の記者会見発言を引用する形で掲載されている。

その内容は、消費増税について、「ただ増税をすることでは消費を冷やす。税率アップは景気条項を踏まえるのが妥当」(下線部分筆者)となっている。経済政策面ではこれ(消費増税の是非)が最大の対立軸になるようだ。

筆者は、上げ足をとるつもりはないが、この発言は、消費増税の趣旨を全く理解していないものと受け止めざるを得ない。

まず、「ただ増税する」わけではない。急速に進展する高齢化への対応、さらには少子化対策や幼児教育無償化に使うための増税である。この点が(意図的にかどうかはわからないが)全く理解されていないのである。

次に、「景気条項を踏まえる」ということだが、今や消費増税の景気条項は、廃止されている。安倍総理1回目の延期時に、「次回は必ず上げる」という趣旨で27年度改正法で廃止されており、現在も景気条項はない。

このような重要な事実も知らないで、消費税の延期という、国民を釣るような政策を打ち出すことには、大変な違和感がある。

小池氏は、高齢化の進む中、増税延期でどのようにして、少子化対策や幼児教育などを含む社会保障政策を遂行していこうとしているのか。「希望」を実現するためには、財源が必要になるということは、冷徹な現実である。

かつて民主党が、「月2万6千円の子ども手当」という、財源なき選挙公約をして、それが実現できなかった。これが、国民から見た民主党政権の政策遂行能力の欠如につながり、失速したわけだが、それと全く同じことが繰り返されようとしている。

国民の冷静な判断が試される。

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