連載コラム「税の交差点」第23回:ブレーンの語るトランプ税制の行方

森信茂樹
東京財団上席研究員/税・社会保障調査会座長

8月2日、東京財団で、日米の経済学者が集まり、筆者も参加し、「日米の経済政策と税制改革」と題するコンファレンスが開催された。基調講演は、「米国における税制改革~課題と展望」と題して、カリフォルニア大学バークレー校のオーバック教授が行った。

彼は、周知のように、長年共和党の税制ブレーン(ただし本人は、政治的にはインデペンデントということだが)を務めており、トランプ税制のキャッシュフロー国境調整税(DBCFT、以下国境調整税)の発案者である。以下、国境調整税に焦点を当てて、彼の講演のエッセンスとそれに対する筆者の感想を書いてみたい。なおコンファレンスの概要は、別途掲載予定。

まず彼の話の内容である。

国境調整税は様々なメリットのある税制だが、政権があまりにも性急に、未消化なまま世の中に出してしまったため、とん挫してしまった。トランプ政権は、カオス状態が続いており、今後の見通しは立たないが、自分は国境調整税の様々なパーツは、依然生き残ると考えている。その理由は、この税制なくして、トランプのいう経済効果をもたらす税制改革を行うことは難しいからである。

とりわけ、法人税制の課税ベースを、所得課税から消費課税へ、さらにはキャッシュフローベースに変えることにより国境調整を可能にすること、現行の全世界課税方式を改め、領土課税方式(国外所得免除方式)に変えることは、米国への産業回帰をもたらし、海外に利益を留保することへの抑止につながるという大きなメリットがある。

6月27日にトランプ政権は、国境調整税については先延ばしの意向を示したが、税制の中身をキャッシュフロー化すること(利子控除を廃止すること)については何も言及していない。

国境調整税の導入による増税で法人税率を引き下げる予定であったのだが、この部分がなくなると、単なる税率引き下げに終わる。4月に公表された税制改革案では、所得税最高税率を現行の39.6%から35%に、法人税率を35%から15%に引き下げ、全世界課税方式から国外所得免除方式に転換する、相続税を廃止するなどという内容となっているが、これでは大幅な税収減となり、財政赤字につながる恐れがある。また、そのため米国議会との約束で、10年間の時限立法にならざるを得ず、結局短期的には何もできない、ということになる。

一方で、保護貿易の考え方は一貫しているので、国境調整税に変えて関税(tariff)で、という選択肢が出てくるかもしれない。

これに対し筆者から以下のリスポンスを行ったところである。

国境調整(輸入時課税、輸出時免税)がとん挫したのは、中身が理解しにくいこと、とりわけ誰が負担する税なのかがわからないので、輸入者も小売業界も国民も反対となる、という要素もあるのではないか。

また国境調整にはそれを実行する仕組み、つまり税関やインボイスなどのツールが必要だが、米国にはそれが整っていないのではないか。

最後に、世界各国が国境調整税を導入すればWTOの問題はなくなるが、米国一国での導入となると、内外無差別を謳うGATTのルールに反することになり、欧州諸国などの反発にあうのではないか。

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