連載コラム「税の交差点」第12回:ロボット・タックス―AIに課税するとは(下)

森信茂樹
東京財団上席研究員/税・社会保障調査会座長

前回(上)、AIが生産性を向上させても、それを需要する経済力がついていかなければAIの継続的な発達はないこと、このギャップを埋める考え方として、政府(国家)が、国民全員に無条件に最低生活費を給付するベーシックインカムというアイデアが出てきていること、かつてこの考え方は左派のものであったが、今はAIの発達に心血をそそぐシリコンバレーの経営者たちも主張し始めたこと、などを述べた。

筆者は、そのような考え方を否定するものではない。しかし、ベーシックインカムというアイデアには、勤労というモラルの問題に加えて、現実には、必要な財源をどのように確保していくのかという大きな問題がある。財源問題を明らかにせず、ベーシックインカム導入の必要性を説くほど空虚なものはない。

筆者は、付加価値を生み出す主体がどんどんAIにシフトしていく以上、AIという無形資産に課税することを考えておく必要があると考えている。

ではどのように課税するのか。

税制の課税ベースとなるのは、ヒト・モノ・カネが生み出す付加価値である。ヒトには、勤労の対価である賃金に所得税が課せられる。モノ(設備)やカネ(資本)には、その対価である利潤に、法人(所得)税や(金融)所得税が課せられる。

問題は、このような所得は、グローバルな経済の中で、容易にタックスヘイブンに移転させ租税回避をすることが可能だということである。すでに、米国のIT企業は、グーグルもアップルも、アマゾンもフェイスブックも、租税回避の巧妙なスキームを構築し、課税を逃れている。

その方法は、特許権、商標権などの無形資産を、タックスヘイブンに移すという方法によって行われている。価値を生み出す無形資産が国外に出て、タックスヘイブンに移転されれば、その活用の対価であるロイヤルティーはすべてタックスヘイブンに作った子会社に入るので、米国もわが国も課税権が及ばないことになるのである。

これに対して、G20,OECDではBEPS(税源侵食と利益移転)というプロジェクトを立ち上げ、15年に国際的な租税回避を防止する勧告を出したのだが、具体的な対応はこれからである。

AIへの課税は、突き詰めると無形「資産」への課税となる。所得や消費に対してではなく、AIという個別の無形「資産」への課税である。

具体的にはどうするのか。たとえば、現在国が補助して進められているAI関連の研究については、国が出資分をきちんと計算して、そこから生み出す無形資産に対する所有権を確定するのである。

国が、AIの所有権(の一部)を持つことができれば、国境を超えてタックスヘイブンに移転されても(資産からの)収入は入ってくる。AIが生み出す付加価値を、その持分割合に応じて国家の財源とすることができる。価値を生み出すのに比例して、税収も増えることになる。

すでにイスラエルが同様な税制を導入している。詳細については『税と社会保障でニッポンをどう再生するか』(森信等、日本実業出版社)を参照していただきたい。

もう一つ重要なことがある。それはAI社会が生み出す計り知れない所得・資産格差をどうやって是正していくかということである。

筆者の答えは、格差是正が手遅れになる前に、国家が財源を確保し、教育投資などを行うということである。

いずれにしても、放置すれば、AIの発達でもたらす未来はデストピアになることだけは確かだ。

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