タイプ: 論考

日付:2017/04/13

「こども保険」構想の考察― 社会保障抜本改革の起爆剤に

小黒一正
法政大学教授

自民党の小泉進次郎氏ら若手議員等が提言した「こども保険」構想などを本格的に検討するため、自民党は「人生100年時代の制度設計特命委員会」を設置した。同委員会で議論をさらに深めて、6月に取りまとめる骨太方針に盛り込む予定である。

Yahoo!のコラム(「こども保険」の理論的な整理」)でも既に考察を行っているが、賛否両論が渦巻く重要なテーマなので、建設的な観点からもう少し考察してみたい。

まず、今回の構想(児童手当の拡充)に対する理論的な妥当性であるが、同コラムでも説明したとおり、

 

① 賦課方式の社会保障(年金・医療・介護)が存在する限り、子どもが公共財的な性質を有することを意味し、その外部性を内部化するためには、一定の財源を確保しつつ、児童手当拡充等の子育て支援を実行する必要があること

② その際、子育てを行った家計が現役期に児童手当をもらうのか、あるいは現役期に児童手当をもらわず、引退期にそれと同額の手当を年金の一部として受け取るように制度設計するのかは政策的な選択問題に過ぎない。後者を選択する場合、それは現役期に育てた子ども数に応じて年金額が増減する政策と同等になること

 

この関係では、小泉進次郎氏らが作成した「こども保険」構想の提言資料(「「こども保険」の導入~世代間公平のための新たなフレームワク構築~)でも、「社会保障改革も、少子化対策と連動して行うべきだ。例えば、年金の支給にあたり、子どもがいる方に特別の加算を行うことも考えられる」旨の記載があり、これは上記②に相当する。

図表1:こども保険の概要

こども保険の概要

 (出所)自民党・2020年以降の経済財政構想小委員会 (2017)「「こども保険」の導入~世代間公平のための新たなフレームワク構築~」資料から抜粋

 

むしろ、問題となるのは、(こども保険の)「財源」と(こども保険という)「名称」であろう。

まず、「財源」であるが、今回の構想では、「当面、厚生年金保険料で0.2%(労使折半で各々0.1%)、自営業者等の国民年金で月160円を上乗せ・徴収し、約3400億円の財源を確保」するとともに、「将来的には、厚生年金保険料で上乗せ幅を1%(労使折半で各々0.5%)、国民年金で月830円を上乗せ・徴収し、約1.7兆円の財源規模を目指す」としており、「引退世代が負担から免れ、現役世代のみに負担が集中する」という批判が多い

この問題の解決のためには、保険料の形式でなく、現役世代と引退世代が等しく負担する消費税を財源とすることも考えられるが、その場合、保険料の形式を採用することで労使折半で負担するはずであった企業側が負担を免れるという問題が発生してしまう(注:労使折半の保険料のうち企業側の負担分が従業員の賃金に完全に帰着する場合、これは問題にならない)。

このため、保険料の形式を採用しながら、引退世代にも負担を求めるため、年金課税の強化も同時に行い、それも子育て支援の財源とすることも考えられる。適切な年金課税を行うならば、全世代が負担するので、消費税を財源とする場合と概ね同等の効果をもたせることができる。

次に「名称」であるが、今回の構想では保険の対象リスクを「子どもが必要な保育・教育等を受けられないリスク」として整理しているが、子育てを行わない、あるいは既に子育てが終了した者にとっては保険に加入して分散するリスクが存在せず、このような整理では「社会保険方式」と位置付けることに無理が生じてしまう。すなわち、「保険」という名称が混乱を招いている。

この問題を解決する一つの方法としては、まず、既に説明したように、今回の構想を「公的年金」の一部に位置付けた上で、名称を「こども保険」でなく、例えば「こども基金」と改め、当該基金を年金特別会計に併設することも考えられる。当該基金の財源は、拠出金か負担金という形で、現役世代からは保険料の上乗せで徴収するとともに、引退世代からは年金課税の強化という形で徴収するのである。

なお、小泉進次郎氏らの提言資料では、「こども保険」構想以外にも、重要な論点を提示している。

その一つが、教育国債の問題である。提言資料では、

 

・一部には、教育無償化の財源として、教育国債の発行を求める声がある。もちろん、平等な教育機会の確保は非常に重要だが、新たな国債の目的や名称がどうであれ、今以上の国債発行が将来世代への負担の先送りに過ぎないことは明白である。

 

として、教育国債の発行を牽制している。公的な資本を幅広くとれば、社会資本や人的資本、科学技術などに対する投資も想定できるため、財政法上の「建設国債の原則」が社会資本への投資に対する既得権的な側面をもつ点は再検討の余地が若干あるが、特例公債法で赤字国債を毎年度発行し、日本の公的債務(対GDP)が200%を超えている今、これ以上の国債発行が将来世代への負担の先送りに過ぎないという指摘は正論である。

また、今回の構想において、年金の支給開始年齢引き上げやデフレ下でのマクロ経済スライド強化といった記載はないが、提言資料では以下のとおり、「子ども・子育て省」の創設や富裕層の年金のあり方、終末医療の見直しについても議論を提起している。こども保険を導入し、抜本的な少子化対策に取り組む以上、現状の「縦割り行政」の問題も解決する必要がある。

 

・こども保険を導入し、抜本的な少子化対策に取り組む以上、現状の「縦割り行政」の問題も解決する必要がある。現状では、少子化対策は内閣府、保育園は厚生労働省、幼稚園は文部科学省と、担当官庁がバラバラで、役割分担も不明確だ。

・昨年の提言でも厚生労働省の分割や複数大臣制に触れたが、国民に明確なメッセージを送るためにも、「子ども・子育て省」を創設し、少子化対策や子ども・子育て政策を一元的に担わせるべきである。こども保険の運営も、同省に担当させることが適当だ。

・また、年金を受け取らなくても困らないような立場の方が年金を辞退される場合には、支給不要になった年金の一部を子育て支援に活用することを制度で明確にすることやインセンティブを設けることなどで、富裕層の年金辞退を促進することも考えられる。

・なお、医療改革では、終末期医療が見直しのテーマとして取り上げられることがある。しかし、この問題は、国民、特に高齢者から見て、説得力のある議論が出来る政治家が議論を主導すべきだ。先輩議員達の未来へ向けたリーダーシップを期待したい。

 

これから自民党は「人生100年時代の制度設計特命委員会」において、「こども保険」構想などを議論するが、同構想のみでなく、人生100年時代の制度設計に相応しいものとなるよう、少子化対策や子ども・子育て政策を一元的に担わせる省庁創設や、裕福層の年金のあり方等のほか、年金の支給開始年齢引き上げやデフレ下でのマクロ経済スライド強化を含め、社会保障の抜本改革の起爆剤になる踏み込んだ議論を期待する。

図表2

小黒2

(出所)自民党・2020年以降の経済財政構想小委員会 (2017)「「こども保険」の導入~世代間公平のための新たなフレームワク構築~」資料から抜粋

 

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