連載コラム「税の交差点」第3回: トランプ税制の見どころ・その2-ボーダー・タックス(Border Tax)とは何か

森信茂樹
東京財団上席研究員/税・社会保障調査会座長

相変わらず、連日のトランプ発言騒動が続いている。政治家はともかく、われわれ民間としては、慌てず騒がず、少し距離を置いて、見極める方がいいのではないか。

今回は、トランプ発言の“Big Border Tax” を取り上げたい。

実はこの発言の詳細は、いまだわからない。おそらく、トランプ大統領も、意識的に内容の定まらないアイデアとして、この言葉を使っているのであろう。

一方共和党の選挙公約(A BETTER WAY)には、法人税を、仕向け地キャッシュフロー税(Destination Based Cash Flow Tax、DBCFT)に変えると明記されている。その最大の特色は、輸入には課税し、輸出は免税にするという「国境調整」を導入することである。

そのためには、法人税の課税ベースを、現在の「所得」から「キャッシュフロー」に変えるとしている。

この税制は、78年のミード報告や10年のマーリーズ・レビューで提言され、ブッシュ大統領時の「成長及び投資税制案」(05年)にもなった考え方で、決して思い付きの税制というわけではない。

背景にあるのは、「欧州や日本は、国境調整のできる税として、消費税・VATを持っているが、米国では導入されていない(将来的にも州との関係で導入できない)ので、国際競争上不利な立場にある」という認識である。

たとえばトヨタがドイツに自動車を輸出する際には、自動車価格に含まれる消費税は還付され、ドイツに輸入される際に、ドイツの消費税が課せられる。これは間接税の二重課税を防ぐための仕向地課税という国際的に合意されたルールであるが、この税制を持たない米国から見れば、「国際競争条件が有利になっている」ということになる。

国境調整をすることのメリットを上げれば以下の点である。

第1に、輸出免税、輸入課税の国境調整を行うので、米国の法人税率が企業の立地選択に影響しなくなる(どこで立地しても同じ税負担となる)。したがって、米国企業の海外移転は抑制され、消費地に近い米国内への回帰を促す効果がある。

第2に、米国多国籍企業の多くが行っている、海外子会社との間の価格操作による利益移転をする必要がなくなるので、これに伴う様々な税制や税務執行が簡素になるということである。もっともこの税制の結果、別の執行上問題が生じることは後述する。

第3に、税収的には増収になる。なぜなら、米国は輸入超過なので、輸出還付、輸入課税は増収である。ただしこの点は、為替調整の可能性があり、中期的にどうなるかはよくわからない。

次に、この税制を、WTOとの整合性をとるために、課税ベースをキャッシュフローに変える必要があるということである。もっとも筆者は、キャッシュフロー型にしたところで、WTO違反の問題は解決されないと考える。

課税ベースがキャッシュフローに変わることにより、以下のような効果が生じる。設備投資は即時全額控除されるので、大きな投資促進効果を持つ。いわば究極の加速度償却ということである。

また(ネットの)利払いが課税ベースから控除されないので、負債(借入)と資本(株式)による資金調達が税制上中立となる。

これは、貸付けを業とする銀行にとっては不利な税制だが、企業レベルでは、過剰な債務が抑制され、米国企業の財務を健全化するという効果を持つ。たとえば、借入金により自己株を買入れ償却しROEを高くするといった、レバレッジの効いた取引も抑制される。

一方でこの税制(DBCFT)の課題は多い。

第1に、売上の多くを輸出する企業は巨額な還付を受け、国民から批判を受ける可能性がある。米国の輸出産業というと、防衛・航空・エネルギー産業ということになろうか。

第2に、中国などから消費財を輸入する小売業などは、大幅な課税により、壊滅的な打撃を受ける可能性がある。彼らが消費者に価格転嫁ができなければ大きな損失を招くし、価格転嫁できれば大幅なインフレ要因となる。

第3に、筆者が最も注目するのは、執行上の問題点である。消費税(VAT)は、インボイスにより個々の取引ベースで課税・還付を適切に執行することができるが、「法人税」として行うには、年間を通じた会社計算の中で行うことになり数多くの課題がある。たとえば、国内で発生した利益と、輸出入から生じる利益や経費をどのように切り分けるのだろうか。

また、輸出すれば還付ということになると、輸出を巡り膨大な不正還付が発生する可能性がある。VATの本国欧州でも、カルーセル・スキーム(メリーゴーランド・スキーム)という、VAT輸出還付に伴う脱税が大きな問題となっている。

こう考えると、IRS(米国歳入庁)が、執行上の観点から、本税制案に反対する可能性がある。

最大の問題はWTOとの整合性だ。共和党の立案者や背後にいるAlan Auerbach カリフォルニア大学バークレー校教授などは「税の中身をキャッシュフローに変えるのだから、消費課税となりVATと同じだ」という主張だろうが、VATとキャッシュフローの課税ベースは異なっており、その主張は正しくない。

いずれにしても、法人税の輸出時還付が輸出補助金とみなされる可能性は極めて高い。さらに加えて、輸入時課税についても問題がある。輸入品については、国産品の場合に認められる経費控除が認められないので、内外無差別条項違反となる可能性が高い。

トランプ大統領は、共和党議員から説明を受けた際、「これは複雑すぎる」と発言したと伝えられており(1月17日付ウォール・ストリート・ジャーナル)、実現に向けてのハードルは極めて高い。

そうであれば、ボーダー・タックスが、「関税」に戻ってくる可能性も無きにしも非ずだが、現段階ではあまりにも不明確だ。

ページトップへ